演歌界の次代を担う第一人者、丘みどりの魅力を満喫できる特集番組を編成

2020.08.06秦野邦彦

oka

8月の歌謡ポップスチャンネルはNHK紅白歌合戦に3年連続で出場し、演歌界の次世代を担う一人として注目を集める丘みどりを大特集。2018年7月4日に東京・中野サンプラザにて満席の観客を魅了した『丘みどり リサイタル2018〜演魅(えんび)〜』の模様をお届けする。

抜群の歌唱力、艶のある声、時折見せるミステリアスな表情がたまらなく魅力的な彼女。兵庫県姫路市生まれの丘は5歳のときに人見知りを克服するため民謡教室に通い始め、小学5年生で日本民謡祭名人戦史上最年少の県名人に選出。幼いころに観たコンサートでの鳥羽一郎に憧れ、迫力のある生バンドの演奏の中心に立って演歌を歌える人になりたいと思ったという。高校3年生のときにオーディションに合格するも、事務所の意向でアイドルグループの一員として活動。体を張ったロケのバラエティー番組出演が多かったという。どうしても演歌歌手の夢を諦めきれなかった彼女はグループ卒業後、音楽の専門学校で歌を学び直し、05年8月にシングル「おけさ渡り鳥」で念願の演歌歌手デビューを果たす。

ただ、決して順風満帆ではなかった。デビュー曲に用意された衣装は着物ではなくアイドル風のミニスカート。見た目ばかり注目され、ちゃんと歌を聴いてくれる人はわずかだった。最愛の母親が病に倒れて一時活動休止。逆風にも「諦めず、前だけを向いて」歩んできた丘に16年、再びチャンスが訪れる。活動拠点を大阪から東京へ移し、レコード会社と事務所を一新することになったのだ。前年に30歳を迎え、最後に東京に出てこれでダメだったら諦めようとまで覚悟を決めていた彼女は、知り合い全員に「事務所を紹介してください!」とお願いして回ったという。

心機一転となったキングレコード移籍第一弾シングル「霧の川」(16年)、そして翌年の「佐渡の夕笛/雨の木屋町」がオリコン週間演歌・歌謡シングルチャートで1位を記録すると、念願のNHK紅白歌合戦に「佐渡の夕笛」で初出場。アイドル出身という経歴も注目を集めることに一役買った。苦節10年でつかんだ夢の大舞台では、歌詞の世界観に合わせた能の衣装が美しく生えた。翌年の紅白では“観れば、ハマる”を合言葉にしたミステリアス演歌3部作の集大成「鳰の湖」を元新体操日本代表・畠山愛理との共演で妖しく魅せ、19年は会いたくても会えない人に折鶴を折る女性の心情を表現した「紙の鶴」を、いまは亡き母が縫った振り袖を着て天国へと届かんばかりに歌いあげた。

演歌のどこに魅力を見いだすかは人それぞれだろうが、丘みどりは「歌詞の女性になりきって演じて歌うこと」とまっすぐに語る。今回オンエアされる『丘みどり リサイタル2018~演魅(えんび)~』は、ブレイク後の勢いそのままに輝きを増していく彼女の貴重なドキュメント的な側面も担ったプログラム。「演魅(えんび)」というリサイタル名は、「演」じて「魅」せるをコンセプトに1曲1曲すべて歌の主人公になりきってバラエティーに富んだ丘みどりをお客さんに楽しんでもらおうという想いから彼女自身が考案したもの。初めて彼女のコンサートを観る方も魅了されること間違いなしの2時間だ。

まずは自身のヒット曲「佐渡の夕笛」で幕を開け、続いて大先輩である美空ひばりの「リンゴ追分 」(52年)を艶やかかつ丁寧に歌い上げていく。70年代アイドルコーナーではカラフルな衣装を早着替えしながら南沙織「17才」(71年)、石野真子「狼なんか怖くない」(78年)、岩崎宏美「ロマンス」(75年)などを披露。江利チエミ「酒場にて」(74年)、ちあきなおみ「紅とんぼ」(88年)では昭和歌謡の素晴らしさを味わわせ、情念となってまでも愛する人を追い求めていく女性の思いを綴る「幽玄組曲」コーナーでは、森進一の「北の螢」を絶唱。まさに名演ここにあり。アンコールでは彼女の原点である民謡「デカンショ節」「南部俵積み唄」、そして新曲「鳰の湖」までを歌い切ったあとの満足げな表情には誰もが拍手を送りたくなることだろう。

この他にもゲストで登場した演歌・歌謡曲情報バラエティー番組『宮本隆治の歌謡ポップス☆一番星』、紅白から恋愛の話まで本音で語り合った女子会風トー クバラエティ『演歌女子。水森かおり&丘みどりスペシャル』前・後編、『五木先生の歌う!SHOW学校』より、丘みどり出演回を放送。ステージの上とはまた違う一面を見られるのも、こうした番組のいいところである。

今年はデビュー15周年イヤーにもかかわらず、なかなかファンに会えない日々が続くため、感謝の気持ちをお届けしたいという思いから『丘みどりバースデー生配信ライブ~演魅スペシャル~』と題した無観客の有料生配信ライブを開催したり、1万5千ピースのドミノ倒しや、標高2,702mの白山登山に挑戦する様子を公式YouTubeチャンネルにて公開するなど話題が尽きない彼女。10月7日(水) にはデビュー曲から最新曲「五島恋椿 /白山雪舞い」までを網羅した初のベストアルバムの発売も決定した。番組を楽しんだあとは是非ともベストアルバムで彼女の歌声を堪能しよう!
(文=秦野邦彦)

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秦野邦彦

1968年生まれ。ライター。『テレビブロス』『フィギュア王』『映画秘宝』『スカパー!TVガイド』、音楽ナタリー、OPENERSなどで音楽、映画、テレビ、フィギュア関連記事を寄稿。構成を担当した書籍にPerfume 『Fan Service[TV Bros.]』(東京ニュース通信社)など。

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