80年代のCBS・ソニーとEPIC・ソニーが野球で対決したら

2021.07.19スージー鈴木

■「ソニー系」の80年代

来たる2021年7月30日(金)22:15~、『POPS & ROCK 1988ライブスペシャル』が放送される。NHKで1988年のクリスマスイブに放送された番組で、資料によれば「1988年を彩る日本のポップス&ロックアーティストが一堂に会し、クリスマスイブの夜に放送された豪華スタジオライブ」と紹介されている。

さて、今あらためて資料を見て驚くのは、その出演陣である――「爆風スランプ、BARBEE BOYS、PRINCESS PRINCESS、REBECCA、TM NETWORK、聖飢魔Ⅱ、米米CLUB、 BUCK-TICK」。驚くなかれ、BUCK-TICK以外、すべて「ソニー系」なのだ。

「ソニー系」――つまり、レコード会社が(ビクターだったBUCK-TICKを除き)CBS・ソニーかEPIC・ソニーの音楽家ばかり。彼(女)らが「1988年を彩る日本のポップス&ロックアーティスト」なのだから、当時、「ソニー系」が最強だったかがよく分かる。

EPIC・ソニーよりもCBS・ソニーの方が先に生まれている。1968年3月の設立。ソニーと米国CBSの合弁契約で発進。南沙織、天地真理、郷ひろみ、山口百恵、キャンディーズなど、70年代のアイドルブームに乗って、邦楽部門が急成長。業界1位のレコード会社となる。

そして80年代、今度はロック系で成功を収める。上記出演陣では、爆風スランプ、PRINCESS PRINCESS、REBECCA、聖飢魔Ⅱ、米米CLUBがCBS・ソニー所属。

EPIC・ソニーは、CBS・ソニー誕生から10年後の1978年8月、そのCBS・ソニーの全額出資にて設立。CBS・ソニーよりも図体は小さいものの、「ロックレーベル」というコンセプトで一気に若者の支持を得て、佐野元春を中心としたラインナップで80年代を席捲。上記出演陣では、BARBEE BOYSとTM NETWORKがEPIC・ソニー所属となる。

■「ソニー系」の野球対決、プレーボール!

ここで、CBS・ソニーとEPIC・ソニーの対比構造を明確にするべく、それぞれの80年代に属していた音楽家で打線を組んでみた。なお打順と守備位置の設定については、音楽と野球をこよなく愛する私の、長嶋茂雄のような動物的カンによる。

●市ヶ谷ジャイアンツ(CBS・ソニー)
1.爆風スランプ(左)
2.ユニコーン(二)
3.久保田利伸(中)
4.大滝詠一(捕)
5.浜田省吾(指)
6.PRINCESS PRINCESS(遊)
7.REBECCA(右)
8.聖飢魔Ⅱ(一)
9.HOUND DOG(三)
投手.米米CLUB

●青山タイガース(EPIC・ソニー)
1.TM NETWORK(中)
2.BARBEE BOYS(遊)
3.大沢誉志幸(左)
4.佐野元春(三)
5.DREAMS COME TRUE(一)
6.大江千里(右)
7.岡村靖幸(指)
8.ラッツ&スター(捕)
9.THE MODS(二)
投手.渡辺美里

「市ヶ谷」「青山」は、それぞれ当時の本社のロケーション。CBS・ソニーの「ジャイアンツ」は、レコード業界の「巨人」として。またEPIC・ソニーの「タイガース」は、設立当時のオフィスに阪神タイガースの小旗がはためいていたというエピソードより。

市ヶ谷ジャイアンツは、先発投手・米米CLUBと大滝詠一のバッテリーによる、変化球を主体としたのらりくらりとした投球術が冴え、4番サード・佐野元春を中心とするEPIC打線を翻弄。打撃では、2番セカンド・ユニコーンが、セーフティバントなどの小技を効かせて相手を苦しめる。

対して、青山タイガースは、若き女性エース・渡辺美里のキレのあるストレートで、大滝詠一や浜田省吾など、ベテラン選手をきりきり舞い。打撃ではTM NETWORKとBARBEE BOYSの横文字コンビが、スピード感のある攻めを展開。

5回まで互角の戦いを続けて、両チーム無得点。ただ、このあたりで、不健康な毎日を過ごしている音楽家特有の体力の無さが露呈。このまま続けると、肝心の、彼(女)らの音楽活動に差し支えそうだったので、80年代のレコード売上で、勝敗を決めることとなった(「それなら最初から野球なんてするな!」というヤジがスタンドから飛んだが……)。

■勝負の結果と新たな刺客の登場

オリジナルコンフィデンス『1970-1989 オリコンチャートブックLP編』(注:CDを含まずLPレコードに絞ったチャート)に掲載された「作品別セールス 邦楽」のランキングで勝敗を決める。具体的には、市ヶ谷ジャイアンツと青山タイガースそれぞれのスタメンによる、同ランキング100位以内の作品数を比較する。

●市ヶ谷ジャイアンツ(CBS・ソニー):3点
→大滝詠一『A LONG VACATION』『EACH TIME』、REBECCA『REBECCA Ⅳ』
●青山タイガース(EPIC・ソニー):0点

と、市ヶ谷ジャイアンツの完封勝利で試合は決した。青山タイガースは、小ぶりがゆえのフットワークを効かせて、脚を使った機動力野球を試みるも、「巨人」には最終的には効かなかったようだ。

しかしここで突然、ジャイアンツと同じく、市ヶ谷を本拠地とする新チームが現れ、9点を取る猛攻を見せて圧倒する。そのチームの名は――市ヶ谷スウィート・メモリーズ!

●市ヶ谷スウィート・メモリーズ(CBS・ソニー):9点
→松田聖子『ユートピア』『Canary』『SQUALL』『Windy Shadow』『SUPREME』『Pineapple』『Tinker Bell』『Candy』『The 9th Wave』

CBS・ソニー時代の松田聖子のアルバムによる市ヶ谷スウィート・メモリーズが、ジャイアンツを圧倒する得点を叩き出した。つまりCBS・ソニーの80年代は、ロックに加えて、さらに「松田聖子の10年」だったということになる。ちなみに市ヶ谷スウィート・メモリーズ、1番から9番、ピッチャーからライトまで、スタメンは全員、松田聖子――。

――以上、与太話はともかく、「ソニー系」が、野球ではなく音楽で直接対決したら、どうなったのか。『POPS & ROCK 1988ライブスペシャル』を見て、ぜひ確かめていただきたい。

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スージー鈴木

1966年11月26日生まれ、大阪府出身。音楽評論家にして、野球評論家でもある稀有な存在。大学在学中に“スージー鈴木”名義でラジオデビュー。その後もラジオ出演や執筆活動を精力的にこなす。著作に『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮社)、『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲の解放区』(KADOKAWA)、『80年代音楽解体新書』(彩流社)など多数。BS放送『ザ・カセットテープ・ミュージック』(BS12 トゥエルビ)にレギュラー出演中。千葉ロッテマリーンズの熱烈なファンとしても知られている。

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