90年代を代表する音楽番組『ポップジャム』。

2020.05.01馬飼野元宏

NHKで毎週土曜の深夜(時期によっては金曜深夜、土曜夕方)に放送されていた、トレンドのポップ・ミュージックをライブスタイルで紹介する音楽番組が『ポップジャム』だ。毎週、渋谷のNHKホールから公開収録スタイルで行われ、イキのいい若手ミュージシャン、新進気鋭のアーティストたちが集結し、幾多の名曲を生演奏してきた。

『ポップジャム』の放送開始は1993年の4月10日。以来、2007年の3月まで14年間にわたって魅力的な旬のアーティストを紹介し続けてきた。

この93年という年に、こういったスタイルの番組がスタートしたのは、90年代の音楽シーンの変革と大きな関係がある。80年代までの日本の音楽は、アイドル・ポップスを主戦力とした歌謡曲、もう一方で自作自演者らバンドをメインとした非・歌謡曲系のアーティストたちの音楽に大きく分かれていた。楽曲提供のような形で互いが交わることは多かったものの、同じステージに立つということは、いくつかの例外を除いて、ほとんどあり得なかったのである。テレビの歌番組には、専属のビッグバンドがいて、歌謡曲歌手がそこに出てきて彼らをバックに歌うというのが普通。バンドが出演する際は、セッティングの都合などもあって、特別扱い的な登場の仕方が多かった。一方、アーティスト系の主戦場であるライブに、歌謡曲系の歌手がゲストで出る、ということもほぼなかった。実際に生で音楽を披露する場で、両者の交流は難しかったのである。

だが、90年代に入り、上述のように二分されていた音楽シーンは、新たに命名された「J-POP」の名のもとに、シーンを彩るひとつの「流行音楽」としてくくられるようになった。今回、放送される『ポップジャム』の出演者の顔ぶれをみても、#16に登場するデビュー1年目のSPEEDや、現役アイドルとして活躍していた酒井法子と、黒夢や爆風スランプのようなロック・バンドが同じステージに立っている。これこそがJ-POP時代にふさわしい音楽番組の在り方であった。その象徴的な存在が「Snow Crystal」を歌う藤井フミヤで、藤井は80年代にチェッカーズのリード・ボーカルとして活躍したが、彼らはアイドルとして熱狂的な人気を獲得する一方で、自作の曲も数多くヒットさせており、音楽センスに長けたバンドでもあった。

#15に出演して「日曜の朝の早起き」を披露しているEAST END×YURIも、アイドルとヒップホップの融合ユニットである。東京パフォーマンスドールのメンバーだったYURIこと市井由理と、インディーズのヒップホップ・シーンで活動していたEAST ENDの組み合わせは斬新で、J-POP時代でないと生まれなかったユニットであろう。彼らは「DA・YO・NE」の大ヒットで、日本のメジャー・シーンに「ラップ」を持ち込んだパイオニアでもあり、これ以降ロック系アーティストからアイドルに至るまで、こぞって楽曲にラップを取り入れるようになったのである。こういったジャンル横断のコラボレーションが、90年代J-POPシーンの楽しさでもあり、『ポップジャム』にはそういった面白さがいくつも生まれている。#15で共演している奥田民生とPUFFYも同様で、ユニコーンを解散してソロに転向した奥田が、初めてプロデュースしたガール・グループがPUFFYである。90年代は彼女たちのように、アイドル的人気もありながら、ミュージシャンシップの高い活動をしていたグループも多かったのだ。

ラップといえばスチャダラパーと組んで名曲「今夜はブギー・バック」を生んだ小沢健二も忘れてはいけない。90年代音楽シーンの最大のトレンドは「渋谷系」と呼ばれる、洗練された洋楽知識を持ったアーティストたちが過去の音楽を再構築して現代的にアップデートするスタイルの音楽が、都会派のポップ・ミュージックとして熱い注目を集めていた。音楽センスの塊であるとともに、あの時代の若者に訴えかけるメッセージ性を孕(はら)んだ詞作もあって、小沢は90年代という時代の空気を代表するカリスマ・アーティストになったのである。そういうアーティストも『ポップジャム』には数多く出演した。

人気アーティストばかりでなく、デビュー間もない新進のミュージシャンたちも出演している。#16に出演しているEvery Little Thingは、まだデビューして3カ月の新人であるが、その後の男性2人+女性ボーカル、という形式のユニットが人気を獲得するハシリの存在で、こういった時代的に新しいスタイルのグループをすぐに出演させているのも、同番組のスタッフに先見の明があったからといえる。

『ポップジャム』には、こうした今となっては貴重な、アーティストたちのパフォーマンスをいくつも見ることができる。ことに、楽曲をフルコーラスで生演奏してくれるのは、音楽ファンにとっても有り難いもので、通常本人たちのライブでしか聴けないような曲も、時に披露してくれた。

また曲間のトークで彼らのフレンドリーな「素」のムードが出ているのも、この時期の司会者・森口博子の親しみやすいキャラクターあってのものだろう。森口は自身もシンガーであり、バラエティータレントとしても人気があったが、このように現役歌手を司会者に起用するのは、かつての『ステージ101』や『レッツゴーヤング』など、NHKの歌番組の定番的な形式だった。言わばアーティスト同士のトークのように、打ち解けた雰囲気が醸し出されているのも、『ポップジャム』の魅力のひとつだ。
90年代の音楽シーンを語る上で欠かせない番組、それが『ポップジャム』だ。ここで観られるアーティストたちのパフォーマンスは、今も人々の心に鋭く届いてくる。

(文=馬飼野元宏)

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馬飼野元宏

音楽ライター。『レコード・コレクターズ』誌などのほかCDライナーに寄稿多数。主な監修書に『昭和歌謡ポップス・アルバム・ガイド』『昭和歌謡職業作曲家ガイド』(ともにシンコーミュージック)など。近刊に、構成を担当した『ヒット曲の料理人・編曲家 萩田光雄の時代』『同 編曲家 船山基紀の時代』(ともにリットーミュージック)がある。歌謡ポップスチャンネル『しゃべくりDJ ミュージックアワー!』ではコメンテーターを担当した。

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