ファン待望のYAONが中止に
実力派アーティスト・さかいゆうの歩んできた道とは

2021.06.21秦野邦彦

本来ならば21年6月6日に東京・日比谷野外大音楽堂(日比谷野音)で2部構成のワンマンライブ「さかいゆう お待たせYAONライブ 2021 “愛の出番” 」を開催予定だったシンガー・ソングライターのさかいゆう。

22歳で単身ロサンゼルスに渡り、独学でピアノを学んだのちシンガー・ソングライター/キーボーディストとして他アーティストへの楽曲提供、バックボーカルとして音楽活動を開始。天性のシルキーボイスで表現される楽曲、ソウル、ジャズ、ゴスペルなどから吸収してきたパフォーマンスは年を重ねるごとに円熟味を増し、日本が世界に誇るポップ・アーティストとして活動している。

昨年5月に同会場でのライブが中止となったため“お待たせ”の思いで臨んできた今年の日比谷野音ライブだったが、直前にさかい自身が新型コロナウイルスに感染、開催中止が決定した。今年2月から4月にかけて行われた全国ツアー「さかいゆう thanks to Japan Tour 2021」でも各自治体のガイドラインに基づき、安全安心なライブを楽しめるよう予防対策を徹底し完遂してきただけに、その悔しさは痛いほど伝わってくる。

5月にリリースしたニューアルバム『愛の出番 + thanks to』の表題曲「愛の出番」は、ブラジル人プロデューサーRenato Iwaiを迎え、コロナ禍に苛まれ分断寸前に向かいつつある人々に“それでも大切なのは愛”という大きなメッセージを込めたバラードだった。09年10月にシングル「ストーリー」でメジャーデビューして以来さまざまなかたちの愛を歌い続けてきたが、「愛の出番」は近年の精力的な活動が生み出したひとつの到達点といっても過言ではないだろう。

18年から世界中で楽曲制作・レコーディングを行う旅をスタートさせ、世界的なプレイヤーとのレコーディングを行ってきたさかい。5thアルバム『Yu Are Something』(19年)ではブラックミュージックへの憧憬をテーマにZeebra、土岐麻子、黒田卓也、Ray Parker Jr.、James Gadson、John Scofield、Bill Stewartらが制作に参加。6thアルバム『Touch The World』(20年)ではロンドン、LA、NY、サンパウロの文化遺産とも言える歴史あるスタジオを巡り、現地のミュージシャン、エンジニアと一緒にレコーディング。作詞家・売野雅勇氏と共作した「Soul Rain」の崇高性、旧知の仲であるOvallらとのリモートセッション配信も話題となった。

間髪入れず今年1月にはアナログと配信のみで7thアルバム『thanks to』をリリース。タイトルはコロナ禍の中でも音楽活動ができていることへの感謝の気持ちを込めたもの。人と人が支え合って生きる様を描く「BACKSTAY」(=背もたれという意味)をはじめ、シンプルに削ぎ落とされたアコースティックなサウンドで構成された全8曲は、どんなときもリスナーに寄り添って歌い続けるよという優しさに溢れていた。

その『thanks to』を初CD化し、新作との2枚組アルバムとして発表された『愛の出番 + thanks to』。Avena Savage、Ryosuke "Dr.R" Sakaiとのコライト楽曲「嘘で愛して(Tell Me A Lie)」やアルバム『Touch The World』収録の「Getting To Love You」の日本語バージョン「大人だからさ(Getting To Love You)」などの収録曲にこめられた癒やしや安心感、つまるところの“愛”たちは、音楽が人々の生活に必要不可欠であることを再認識させてくれることだろう。

今回オンエアされる『さかいゆう 愛の出番 -Road to YAON-』は、その最新作を携えた彼が日比谷野音のステージまでの軌跡を追ったスペシャルプログラム。19年10月13日にデビュー10周年を記念して行った自身プロデュースによる初の野外音楽イベント『さかいゆう 10th Anniversary Special Live “SAKAIのJYU”』、そして20年、21年に行われたライブの模様を振り返りながら、さかいゆうの音楽の魅力を凝縮してお届けする30分だ。

ファンはご存知の通り、2年前の『“SAKAIのJYU”』も日本各地に甚大な被害をもたらした台風19号の影響で、当日まで開催が危ぶまれた状況だった。開場時にはゲストのMUROによるソウル、R&Bをメインとしたグルーブ感溢れる選曲のDJ TIME。第1部はインディーズ時代を彷彿とさせるリハーサルなしのジャム・セッションパート。第2部は佐藤竹善(SING LIKE TALKING)、JAY’ED、竹内朋康(マボロシ/ex.SUPER BUTTER DOG)、土岐麻子、冨田ラボ(冨田恵一)、西寺郷太(NONA REEVES)、秦 基博、日野皓正、そしてシークレットゲストのKREVAという活動に関わった豪華ゲストを招いたコラボレーションパート。第3部は10年間のヒストリーを凝縮したワンマンライブという三部構成で表現された彼の歩み。番組では土岐麻子との「How Beautiful」、佐藤竹善との「What You Won't Do For Love」、KREVAとの「生まれてきてありがとう」というレアなコラボも堪能いただきたい。

まもなくメジャーデビュー12年。決して平坦ではなかったこれまでのさかいゆうの軌跡を思いつつ、さらに充実した活動を願って全力でエールを送りたい。次の日比谷野音ライブでは割れんばかりの歓声がおこることは間違いないだろう。

(文=秦野邦彦)

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秦野邦彦

1968年生まれ。ライター。『テレビブロス』『フィギュア王』『映画秘宝』『スカパー!TVガイド』、音楽ナタリー、OPENERSなどで音楽、映画、テレビ、フィギュア関連記事を寄稿。構成を担当した書籍にPerfume 『Fan Service[TV Bros.]』(東京ニュース通信社)など。

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