日本のガールズ・ロックを象徴するイベント「NAONのYAON」

2021.06.14馬飼野元宏

「NAONのYAON」というイベントをご存じだろうか。

この語呂合わせの語感の良さから、多くの音楽ファンにも認知度が高いと思うが、今年の4月29日、日比谷野外大音楽堂で「NAONのYAON 2021 」が開催された。コロナ禍の折、無観客開催ながら数々のガールズ・バンド、女性ロック・シンガーが一堂に会し、熱いステージを繰り広げたが、このイベントは実に通算15回を数え、第1回のステージは1987年9月20日というから、相当に歴史のあるイベントなのである。

もともとは、SHOW-YAのボーカリストである寺田恵子が、彼女が出演していたラジオ番組『オールナイトニッポン』で発言したことがきっかけとなって企画されたもので、第1回は87年9月20日。それ以前に「0回」として、渋谷のライブハウス「TAKE OFF 7」で開催したものがきっかけだそう。87年といえばロックが日本の音楽シーンの中心で猛威を奮っていた時期でもあるが、一方で女性だけのロック・バンドは、それこそSHOW-YAのほかにはメジャー・デビューしたばかりのプリンセス・プリンセスらが出演したが、ロックにおける女性アーティストの数は、相対的にみても圧倒的に少なかった。「女がロック?」とまことしやかに語られる時代だったのである。

また、それ以前の女性だけのイベントでは、「ひなまつりコンサート」というものが70年代後半から80年代初頭にかけて開催されていた。こちらは女性のフォーク、ニュー・ミュージック系シンガーたちを集めたもので、女性だけのイベントには一定の訴求力があったのである。だがNAONのYAONは「ロック」という共通項で結ばれた出演者たち、という点が画期的だったのである。

ただ、SHOW-YAの前にも、女性ロック・シンガーの先駆者は存在していた。カルメン・マキもその1人で、彼女は69年に「時には母のない子のように」で鮮烈なデビューを飾る。同曲の作詞をした寺山修司の劇団「天井桟敷」の団員であったことなど、アンダーグラウンド・シーンから登場してきたシンガーで、楽曲的にもフォークのイメージを持たれていたが、70年代半ばにはロックに転向、自身のバンドを従えカルメン・マキ&OZとして活動、女性ロック・シンガーの草分けと呼ばれる存在になった。
SHOW-YAの寺田恵子は、カルメン・マキをこよなく敬愛し、第1回の「NAONのYAON」にもゲストとして“召喚”。代表作「私は風」を野音のステージで歌うカルメン・マキを見て鳥肌が立つほどの感動を受けたという。その後94年に寺田はカルメン・マキの名曲のカバー集『悪い夢』を発表、ここで「私は風」をカバーしている。

この第1回(87年)には、4月に「恋はバランス」でデビューしたばかりのプリンセス・プリンセスも出演している。プリプリはもともと84年に「赤坂小町」の名でデビューしていたが、前年に改名し再始動を果たしていた。SHOW-YAとプリプリはバンドも5人編成と同じで、当時から数少ない「女性だけのバンド」として同志的な連帯を感じていたと、寺田は語っている。

第2回の開催は88年9月11日。前回に比べてグッと層が厚くなり、SHOW-YA、プリプリのほか、本田美奈子率いるMINAKO with WILD CATS、歌謡ロックの先駆者であるアン・ルイスのほか、レベッカのNOKKO、シーナ&ザ・ロケッツのシーナもそれぞれ単独出演。ジュ―シィ・フルーツのイリアは、もともと70年代に活動したガールズ・バンド「ガールズ」に在籍しており、彼女もまた女性ロック・バンドの先駆的存在であった。本田美奈子はこの時期、トップ・アイドルから「ロック」へと転身を果たしており、直前にはゲイリー・ムーア書き下ろしの「the Cross~愛の十字架」をリリースするなど、かなりロックに傾倒していた時期でもある。WILD CATSもまた女の子だけのバンドだった。

90年の第4回では、9月15日、16日の2日間公演となり、NORMA JEAN、PINK SAPPHIREといった新進ガールズ・バンドも続々と参加。前年にプリプリが大ブレイクを果たしたことで、レコード会社各社がガールズ・バンドに力を入れるようになったのである。91年の第5回には、リバイバル・ブームで大復活した山本リンダまで出演している。だが、この第5回を最後にNAONのYAONはいったん終止符が打たれた。99年に一度だけ川崎のクラブチッタで番外編的に開催されたことはあるものの、この時、既に中心人物だったSHOW-YA、プリプリともに解散しており、元メンバーという形での参加であった。

NAONのYAONが復活を遂げるのは2008年4月29日。17年ぶりに開催されたこのステージでは、もちろん復活したSHOW-YAをリーダーとして、プリプリの元メンバーのほか杏子など過去の出演者に加え、新たなガールズ・バンドとして人気を獲得していたSCANDALや、相川七瀬らが出演。これ一度で終わるかと思ったが、13年には日比谷野音の90周年事業と連動し、5年ぶりに公演が決定。シシド・カフカや中川翔子、土屋アンナ、星屑スキャットといった新世代のガール・シンガー、グループに加え、特別ゲストで夏木マリが登場するなど、大きな盛り上がりをみせた。

NAONのYAONが本格的に再始動するのは、この13年からで、以降は毎年開催されることとなる。昨年は4月29日に開催予定であったが、コロナ禍の影響で延期となり、1年後の同日、無観客による開催が行われた。今回の出演者は小柳ゆき、田村直美、中村あゆみと相川七瀬のコラボANNA、ファーストサマーウイカ、ザ・コインロッカーズ、さらにプリプリからは富田京子と渡辺敦子が出演と、若手からベテランまで華やかなメンバーが勢ぞろいした。そして、先日闘病を告白した葛城ユキもステージに立っている。

歌謡ポップスチャンネルでは、18年、19年に続いて今回も独占放送を決定。番組は1部と2部に分けて全3時間で構成される。第1回の開催から実に34年。紆余曲折がありながら、ここまで続けてきたSHOW-YAの継続力には頭が下がるばかりである。まだ、女性がロックをやることが奇異に見られていた時代から、今ではアマチュアでもガールズ・バンドを結成することが、ごく普通の風景となった。それでも彼女たちがNAONのYAONにこだわり続けるのは、単に華やかな風物詩というだけでなく、女性だけでしか表現できないロックがある、その信念を持ち続けているからであろう。女だけのロック解放区はこれからも熱く華やかに続いていく。

(文=馬飼野元宏)

nn

馬飼野元宏

音楽ライター。『レコード・コレクターズ』誌などのほかCDライナーに寄稿多数。主な監修書に『昭和歌謡ポップス・アルバム・ガイド』『昭和歌謡職業作曲家ガイド』(ともにシンコーミュージック)など。近刊に、構成を担当した『ヒット曲の料理人・編曲家 萩田光雄の時代』『同 編曲家 船山基紀の時代』(ともにリットーミュージック)がある。歌謡ポップスチャンネル『しゃべくりDJ ミュージックアワー!』ではコメンテーターを担当した。

SHOW-YA

関連番組

最新の記事