さかいゆうの魅力を4回にわたって紹介

2020.05.27秦野邦彦

昨年メジャーデビュー10周年を迎えたシンガーソングライター、さかいゆう。

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天性の歌声、グルーヴ、そしてポップセンスを兼ね備えた彼のアルバムはどれも素晴らしいが、とりわけ今年3月にリリースされた通算6作目『Touch The World』はキャリア最高の完成度と言っていいだろう。自身のルーツを詰め込んだ前作『Yu Are Something』での経験を踏まえ、今作では(フランク・シナトラの「マイ・ウェイ」がレコーディングされた事で知られる)LAのイーストウェストスタジオを皮切りに、 NY、ロンドン、サンパウロという4都市を巡り、現地のミュージシャンやエンジニアと全曲海外レコーディングを敢行。“世界”と“旅”をテーマに制作された本作は、STAY HOME中の我々を音楽の力で海の向こうへと誘ってくれる魔法の1枚だ。


彼の経歴を簡単に紹介しておこう。高知県出身のさかいは18歳で音楽に目覚め、22歳の時に単身LAに渡り独学でピアノを習得。帰国後は他アーティストへの楽曲提供やバックグラウンドボーカルで頭角を現し、2009年10月、シングル「ストーリー」でメジャーデビュー。同曲はFMラジオ43局でパワープレイを獲得し、全国にその名を知らしめることとなる。杏子、山崎まさよし、スキマスイッチ、秦 基博らを擁する音楽制作事務所オフィスオーガスタのスペシャルユニット“福耳”での活動、土岐麻子「How Beautiful」(08年)、SMAP「Yes we are」(14年)、Sexy Zone「忘れられない花」(18年)などの楽曲提供(作曲)、KREVA、RHYMESTER、冨田ラボ、Little Glee Monster、日野皓正といった幅広い顔ぶれとのコラボレーションでも毎回話題を集めてきた。

SOUL、R&B、JAZZ、ROCK、HIP HOPといった幅広い音楽的バックグラウンドを、極上のポップスへと昇華してきたさかい。今回の『Touch The World』では彼がこれまで多大な影響を受けてきたアーティストたちとのセッションを通じて、音楽の持つ無限の表現力、豊かさ、奥深さを伝えてくれる。ロンドンでは元ジャミロクワイのベーシスト、スチュワート・ゼンダー(Stuart Zender)、 インコグニートのリーダー、ブルーイ(Bluey)、LAではプリンスのニュー・パワー・ジェネレーション出身のギタリスト、キャット・ダイソ(Kat Dyson)、NYでは現代ジャズ・シーンの最先端にいるプロデューサー/サックス奏者テラス・マーティン(Terrace Martin)、 サンパウロではさかいがリスペクトしてやまないキーボーディスト、レナート・ネト(Renato Neto)を筆頭に、マルセロ・マリアーノ(Marcelo Mariano)、マックス・ヴィアナ(Max Viana)といった豪華な顔ぶれが参加。

タニア・マリアの雄大なグルーヴ、マイゼル・ブラザーズの繊細なディレクションを彷彿とさせる1曲目「Hey Gaia」で幕を開け、アビーロードスタジオにてエヴァートン・ネルソン(Everton Nelson)による壮大なストリングスサウンドが胸を打つ「Soul Rain」、そして作詞・作曲・全楽器演奏をさかいが担当したクールダウントラック「グッナイ・グッバイ」で幕を閉じる1時間ちょっとの世界旅行。これだけのものを聴かせてもらえれば、制作過程の風景をのぞいてみたくなるのが音楽ファンの性。現在放送中の『さかいゆう Touch The Soul WOWOW PLUS MUSIC -深夜1時の音楽タイム-』(全4回)は、そんなあなたのための番組である。

第1回のゲストは、本アルバムで本格的なゴスペルソウル「21番目のGrace」、巨匠マイルス・デイヴィスに捧げた「孤独の天才(So What)feat.Terrace Martin」、雨をテーマにしたバラード「Soul Rain」の歌詞を手がけた売野雅勇。中森明菜「少女A」(82年)、チェッカーズ「涙のリクエスト」(84年)、郷ひろみ「2億4千万の瞳」(84年)など数多くのヒット曲で知られる売れっ子作詞家だが、さかいは売野が書いた中谷美紀 with 坂本龍一「砂の果実」(97年)に衝撃を受け、前作『Yu Are Something』で詞を依頼したという。番組では、さかいが「砂の果実」のピアノ弾き語りを披露し、どの部分に感銘を受けたかを解きほぐす。それを受け、30年近い人生の先輩である売野は、詞を書く際のルーティーンまでつまびらかにする。“言葉”を介して生まれた両者の信頼関係を垣間見ることができた心地よい瞬間だった。
番組ではロンドン、LA、NY、サンパウロでのレコーディングの模様もオンエア。現地の腕利きミュージシャンに「こんな感じで演奏できないかな? 例えばジェームス・ジェマーソンみたいな」とモータウン黄金期を支えた伝説のベーシストの名前を出して自身の求める音を説明するや、“なるほど、いいね”と瞬時に応える相手とのやりとりも実に音楽的。こうしたさりげないビハインド・シーンに勇気づけられる若いアーティストも多いことだろう。

最後に6月17日(水)リリースのニューシングル『Soul Rain + Touch The World Instrumentals』にも触れておきたい。「Soul Rain」のアルバムバージョンに加え、ピアノと歌のみで未編集一発録りをした「Soul Rain(Acoustic Ver.)」、ニール・セダカのカバー「Laughter In The Rain(A Cappella Ver.)」の3曲をパッケージしたDisc1に加え、Disc2にはAlbum『Touch The World』全12曲のインストを収録。マスタリングはレッド・ツェッペリンの一連のリマスタリングを担当したロンドン・メトロポリススタジオのジョン・デイヴィス(John Davis)が手がけた。売野と2時間ほどかけてたっぷり話し合った「Soul Rain」のコンセプトは「僕は雨、死んでも雨となって愛する貴方に降り注ぐと約束します」というロマンティックなもの。これから本番化する梅雨空の下、大切な人のことを思いながら愛聴したい美しいナンバーだ。

(文=秦野邦彦)

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秦野邦彦

1968年生まれ。ライター。『テレビブロス』『フィギュア王』『映画秘宝』『スカパー!TVガイド』、音楽ナタリー、OPENERSなどで音楽、映画、テレビ、フィギュア関連記事を寄稿。構成を担当した書籍にPerfume 『Fan Service[TV Bros.]』(東京ニュース通信社)など。

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