ジャンルもスタイルも百花繚乱。クリスマスに放送された“若者向けの紅白歌合戦”

2020.11.13馬飼野元宏

80年代終盤、日本のロック&ポップス・シーンは実に豊潤であった。

70年代から活躍するアーティストたちがベテランの域に入りさらなる活躍を見せる中、もう一世代下にあたる若手実力派アーティストたちがヒットを飛ばしはじめ、ライブの動員力をつけていったのがこの80年代終盤である。渡辺美里、大江千里といったソロ・アーティストから爆風スランプ、聖飢魔Ⅱなど、異色のロック・バンド。原宿ホコ天出身のJUN SKY WALKER(S)やビート・ロック系のUNICORN、UP-BEAT、アンビエント系と呼んでよさそうな遊佐未森やゴンチチ、R&B系の岡村靖幸、歌唱力重視のボーカリストである小比類巻かほるに徳永英明、そしてガールズ・バンドのSHOW-YAやプリンセス プリンセスなど、音楽ジャンルもスタイルも百花繚乱。それぞれのスタイルが認知され、人気を獲得していったのだ。ミュージシャンの側も聴き手も、音楽を楽しむ幅が広がったのがこの世代の特徴である。そして彼らは一様にしてライブを主体に活動していた。

ちょうどこの時期は、従来のテレビの音楽番組が急速に下火になった時期でもある。歌謡曲を中心とした、番組専属のビッグ・バンドがいるような歌番組は激減していた。この時代に隆盛を極めたロック・バンドや自身のバンドを従えて演奏と歌を披露するソロ・アーティストにとっては、ライブ活動を中心にすることが、王道のサクセス・ストーリーでもあったのだ。オンラインシステムの浸透によりチケットの入手が容易になり、ライブハウスや地方のホール、アリーナも充実期にあった80年代終盤は、ライブ・アーティストにとって大きな変革期であり、また当時の若者層もより気軽にライブに参加できる楽しさがあった。

しかし、テレビ番組もこういった音楽シーンのフェーズの変化に手をこまねいていたわけではない。自作自演者やバンドの音楽を、いかにテレビを通してお茶の間に届けるか。そういった試行錯誤が実を結んだのがこの時期の音楽番組である。70年代終盤にはまだ難しかった舞台上でのバンドのセット・チェンジもスムーズに行えるようになり、映像や音のクオリティーも格段に進化したことも加わって、ようやくライブ・アーティストたちのパフォーマンスをストレートに届けられる、いくつものスペシャル音楽番組が誕生していったのだ。

ことにクリスマス・シーズンには若者向けの音楽特番が多くなっていた。この手のクリスマス特番で名高いのは、86年と87年のクリスマス・イブに日本テレビで放送された『メリー・クリスマス・ショー』だが、今回放送されるNHKの「X’masスペシャル ポップス&ロック 1989ライブ」(再11月22日(日)後10:00~)は、ぐっと若者向けにフォーカスを当てた、この時代人気の若手アーティスト総集合といった番組である。

NHKはこの時期『ジャストポップアップ』という若者世代向けの音楽番組をスタートさせ、その後『ポップ・ジャム』『MUSIC JAPAN』といった人気番組へと発展していくが、その一環としてクリスマスに放送された特番が「X’masスペシャル ポップス&ロック」である。冒頭に挙げたアーティストたちが一堂に会し、それぞれライブ・パフォーマンスを披露するなんとも贅沢な番組だが、この89年版ではUNICORNが「大迷惑」を、徳永英明が「レイニーブルー」を、ジュンスカが「歩いていこう」を披露。いずれも彼らの代表作となるナンバーだが、この時期にはまだできたての斬新なポップ・チューンであった。同年に大ブレイクを果たしたプリプリもあの名曲「Diamonds~ダイアモンド」を披露している。

同じく88年のクリスマス・イブに放送された回(12月放送予定)では、レベッカ、バービーボーイズ、TMネットワーク、米米クラブなどが出演していた。1年でずいぶんとメンバーが変わるものだと思うが、88年に出演した彼らは、89年には既にアリーナ・クラスのビッグ・アーティストに成長していたこともあるだろう。

もうひとつ、テレビ特番にとって大きいのは女性アーティストの活躍である。渡辺美里やプリプリ、永井真理子、浜田麻里、レベッカのNOKKOやバービーボーイズの杏子といったアーティストたちが、キュートで華やかな衣装に身を包み、ロックやパワー・ポップを歌う姿は、番組をカラフルに彩るのに欠かせないものであった。女性がロックを歌うことがようやく認知されてきた時期でもあり、それは従来の、例えばジャニス・ジョプリン的な女性ロッカーの在り方から、より華やかでカッコいい女の子たちの姿へと変貌していった時代ならではのものである。彼女たちとこの時期の音楽番組の親和性の高さは、今回の放送を観てもよくわかるはずだ。

この「X’masスペシャル ポップス&ロック」は、言うなれば若者向けの『紅白歌合戦』。年に一度の日本のロック&ポップスの祭典だった。今もビッグ・ネームで活躍する彼らの、若き日の瑞々しいパフォーマンスは、大変貴重なものである。

(文=馬飼野元宏)

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馬飼野元宏

音楽ライター。『レコード・コレクターズ』誌などのほかCDライナーに寄稿多数。主な監修書に『昭和歌謡ポップス・アルバム・ガイド』『昭和歌謡職業作曲家ガイド』(ともにシンコーミュージック)など。近刊に、構成を担当した『ヒット曲の料理人・編曲家 萩田光雄の時代』『同 編曲家 船山基紀の時代』(ともにリットーミュージック)がある。歌謡ポップスチャンネル『しゃべくりDJ ミュージックアワー!』ではコメンテーターを担当した。

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